恋慕の自覚
中島みゆきが好きだが、中島みゆきのファンはあんまり好きじゃない。彼女の歌って他人と語り合う類のものじゃないと思う。つまり、それくらいに個人的な、ちょっと人とは共有したくないような感傷に関わってくる歌だと思うんだけどね。
あの人の歌には時折、共通するモチーフが出てくる。
なかでも、どうも僕は“夜行”ものが弱いみたいだ。
タイトルだけ思いつくままに挙げると、「流星」、「C.Q.」、「おだやかな時代」、「シングルス・バー」、「夜行」辺りだろうか。
#わからない人にはぜんぜんわからないよなー。
##ちなみに、かってに“女神もの”に分類しているのは「最後の女神」、「炎と水」、「傷ついた翼」、「誕生」、「銀の龍の背に乗って」、「歌姫」とか。他にも1人称が“僕”の歌というのがあってこれもまた。
夜という時間は心安らぐ時間であり、思惟に向いた時間なのだけど、あんまりにも寂しすぎる。そんなとき、じつはそばに人なんていてほしくない。
ただ、声を聞いていたい。
一人じゃない証しに、暗い空の下、同じようにひざを抱えていたり、ため息をついている数多の人たちの、ただ、存在だけを感じていたい。
彼女の歌は、いかにしても否定し得ないほどに“彼女”でありながら、決して押しつけがましく踏み入ってこようとしない。その汎存在的な響きは、多分それゆえに女神の歌、歌姫の歌なのだと思う。
彼女に振り向いてほしいとは思わない。
彼女を独占したいとも思わない。
彼女を共有したいとも思わない。
その歌についても同様だ。
だから、多分恋愛ではなく恋慕なのだろう。この感情は。