氷とアスファルト
雪の東京というのは2日前までくらいの話で今はもう、日陰に氷が残るくらい。”氷の東京”というにはちょっとつつましい。
実家の山形市も山間部はともかく、市街地ではこうした解けた雪とアスファルトのことが多かった。
思い出すのは、延々と歩きながら小説やゲームや友達のことや将来のことを話していたこと。当然一緒に歩いていたのは男の相棒なのだけど、間違いなくあのころのネタが今の自分の基礎になっていたりする。そういえば、聞いていた曲や読んでたマンガなんかも結局あの3年間が決定的だった。
#この三年間にTVゲームに触ることができなかったのはたぶん、幸いだったと思う。その分、本やマンガやRPGに触れることができたのだから。
相棒の家は自分の家よりも学校から近く、しかもいつもちょうど話に興が乗った所あたりで門につくのでわざわざ遠回りすることが多かった。その家のあるブロックを4周ほどした事もある。
その間何をしていたかってーと、重いだすと今でも赤面なのだが、ひたすら「考えた小説のシーン」や「キャラクター同士の掛け合い」を自分が話し、それに相棒が寸評や感想を入れるということをしていた。「これかっこよぐね?」、「おまえ、天才じゃね? 」なんてことをやって、歩いていた。
キャラ設定・背景設定とかをノートに書いて交換したりもした。お前ら、ほかにすることなかったのかと言いたくもなるが、本当になかったのだから仕方ない。
匂いというものが記憶と密接にかかわっているってのは、きっと経験上誰もがうなずいてもらえることだと思うが、その伝でいくと僕は氷とアスファルトの匂い、雪と車の排ガスの匂い、冷たい空気の匂いをかぐとそのころがすぐに思い出される。
学生になって東京に出てからは、思い出す匂いは冷たく、そっけない風の匂い、キンキンに冷えて晴れた星空の匂いと、銭湯の石鹸の匂いになる。
この間、HPにおいてある小説をざっと眺めたら、6編中、4編ほどが雪とその匂いについて書いてあってちょっと笑ってしまった。
せっかくなので、晒す。
『大助の夜』
http://www.trpg.net/user/D16_Web/Novels/K_Novels/oske.html
田舎伝奇モノ、若干『神話』風味。凍る夜は遠くの音が聞こえてくるんです。
『涅槃雪華』
http://www.trpg.net/user/D16_Web/Novels/K_Novels/Nehansekka.html
大風呂敷伝奇モノ、荒俣宏に傾倒してたことがわかるなぁ。昔は冬の夕方にカラスの群れがスキー場の森に来てたんだけど、ここ最近実家に帰るとそうでもない。
『想縁雪舞』
http://www.trpg.net/user/D16_Web/Novels/K_Novels/tatoeba.html
東京に来てから書いた話、ビルの谷間に降る雪って里じゃなかったからさ。
『枝角の記』
http://www.trpg.net/user/D16_Web/Novels/S_Novels/Stag.html
昔話+動物記風味、異世界モノ。何度か鉢合わせているけど鹿もカモシカもどっちも外で出くわすと焦る。
久しぶりに、日が落ちてから、ただ歩くために氷を踏みたい。そう思う。
……いや、もちろん仕事を抱えている現在からの逃避だってのはわかってるんだけどね。