じゃあ、どうする? シナリオだ!
さぁ、製品シナリオの話をしましょう。
『赤い手は滅びのしるし』(原題:Red Hand of Doom)*1と『鬼哭き穴に潜む罠』(原題:Scourge of the Howling Horde)が翻訳されます。
前項で述べた“D&Dという環境”を完全に輸入することは、現在は無理です。翻訳サイトの性能が上がるのを待つとしましょう。さらに言うなら海外のD&D環境を丸ごと輸入できるというのが理想とも思えません。スタージョン則の通りに90%は屑です、多分(検証はしてません。する気も無い)。
うぬぼれるわけではないですし、実際に日本語で何を出すか決定するのはHJの方々なのですが、日本でのD&D製品は10%の方を選んでると思います。
で、この日本に紹介される2つのシナリオは10%のなかでも最上級品です。
『赤い手は滅びのしるし』は5〜10レベル対象の叙事詩的なシナリオ。『鬼哭き穴に潜む罠』は1レベルPC対応の本当に基本的な、そして痒いところに手の届く完璧な入門用シナリオです。
特に『鬼哭き穴に潜む罠』のシナリオ書式は、これまでのシナリオとは異なり、1つの見開きで1つの遭遇を説明するという、DMへの説明や状況の説明が豊富なものであり、いうなれば“DM練習帖”、“初めてのマスタリング・ドリル”とでも言うべきものになっています。これからD&Dをはじめようというのであればコア・ルールとこのシナリオを買うのが一番です。
シナリオの提供方法というか形式も3.5版になったのだな、そうしみじみ実感できる出来で、このあたりの紹介は刊行が近づいたら是非、別に行ないたいところ。
ここでは『赤い手は滅びのしるし』を紹介しましょう。
○叙事詩的な冒険を遊ぶ
このシナリオは、D&Dを遊び始め、ある程度ルールもわかってきたけれどダンジョン・ハックにはそろそろ飽きてきたかなという人たちに、まさにオススメです。D&Dの可能性を引き出し、提示してくれるシナリオだからです。
D16の思うところ、D&Dというのは“叙事詩的な冒険”を行なえるゲームであり、さまざまな状況に対応するルールやデータは、そのために揃えられているものです。
もちろん、ダンジョンをひたすら突破してゆき、閉空間でのカツカツのリソース管理をしてゆくというスタイルでもD&Dは十分に楽しめます。
背景世界との相互作用には重きをおかず、状況への挑戦、ゲーム的、パズル的に遊ぶ。これもまたおもしろい。
だが、D&Dはそれ以外の遊びももちろんできるのです。
架空世界の一部として、NPCや社会に働きかけ、自分たちで状況を変えてゆく。人々を指揮し、迫り来る軍勢から逃げ延びるだけではなく、自ら策を練って敵を迎え撃つことだってできるでしょう。
『赤い手は滅びのしるし』にはこの物語を遊ぶためのデータ・資料がすべて揃っています。
背景設定、魅力的なNPC、PCたちの働きかけを待つプロット、事件の進行を示すタイムスケジュール、ランダム遭遇表、気候の情報、そして、その背景世界でPC達が自由に動くことを保証するデータ、データ、データ。
冒険の舞台となるエルシア谷の説明にはほぼ1章が費やされ、その中にはPC達が接さないかもしれない情報、訪れないかもしれない村、言葉を交わさないかもしれないNPCの情報が記されています。けれど、その情報は無駄ではありません。なぜなら、PCたちはこの地図の上を(望むのであれば)縦横無尽に駆け巡り、押し寄せるホブゴブリンの大群と戦えるからです。
さらに、各章、各遭遇にはデザイナーからのアドバイスや、遭遇デザインの意図、遭遇を行なった後の発展のさせ方までコラムが配されてます。PC達がどんな行動をとっても、対応できるでしょう。
読みさえすれば、DMはこの叙事詩的なシナリオを実行できます。さらに、これを“読み込め”ばこうしたシナリオを自作し、実行するためのノウハウも得られるでしょう。
これこそが“製品の”シナリオなのです。
これこそが、サプリメント1冊に等しいだけの金額を支払うに足る“製品”なのです。
実のところ、このシナリオはD&D者以上に、若くて国産ゲームを遊ぶ人たち、特にかつてHJから出ていた名作RPGのシナリオ(『ニャルラトテップの仮面』や『トラベラー・アドベンチャー』などなど)を“知らない人”、“読んだこと無い人”にこそぜひ読んで欲しいシナリオだったりします。
決して無駄にはなりません。
このシナリオはモンスターの差し替えやところどころの判定処理を移し変えれば、汎用のファンタジーRPG用シナリオとして、D&D以外のアリアンロッドやソード・ワールドなどのファンタジーRPGシステムでもおそらく十分遊べるでしょう。*2