卓上戦諸録(D16)

D16の卓上ゲーム記録

技能チャレンジについての誤解

このあたりで、技能チャレンジというのが熟練DMがアドリブなどで処理していたフリースタイルな非戦闘遭遇をなんとか定量化しようとする試みなんではないかと思い至る。

 というか、このあたりWoCのデザイナ陣もどれだけ自覚的か怪しいものだけど。
 と言うよりも、非戦闘遭遇をどのようにゲーム的に処理するか、それをおもしろく、かつわかりやすくするか、と言うことについてガンドッグのTRSやAマホが先行き過ぎてるンじゃないかという気もする。
 
 ここで言及するのは”長期間の技能チャレンジ”ね。
 海燕のリプレイで言うなら、隠された港を捜すために洞窟網を抜けるために行なってた技能チャレンジ。
 
 技能チャレンジというのは、非戦闘遭遇をシステム的に解決するための新ルールではない。まず、このことを改めて認識しておこう。
 むしろ、技能チャレンジとその表現書式(WoCのDLシナリオやモンスター本で頻出)と言うのは、これまで手慣れたマスターが各々のセンスや背景世界のシミュレートから導き出していた、「非戦闘遭遇の対応方法」を何とか要素に分解して、まったくマスタリング経験がない人にもわかるように示そうとした、「泳ぎ方/投げ方/走り方、の分解写真」みたいなものなのである。
 
 やはり自分の書いたものを例に出そう。
 若獅子の戦賦、監獄島編、監獄島へのアプローチの場面である。
 
 あそこはDMとしては監獄島へどのような形を取って進入してもらっても構わなかった。監獄島の地理的データ的準備はしてあるし、トーチ・ポートの設定もある。あそこで僕がしていたことは、PL陣のアイデアを聞いて、それに対して難易度を示したり、NPCによる対応を返すということだ。
 これ、たぶん、初めてのマスターは戸惑うはずだ。確かに、難易度などはルールブックに従えば算出できる。NPCについても出すことは簡単だろう。しかし、PL側から提案されたアイデアに対して、それがどの程度歯ごたえあるものなのか、どれくらいのやりとりで目的地に到達すべきなのか。その遭遇でPCたちがどれだけの問題に対処しなければならないのか。それを判断するのが大変なのだ。
 
 実のところ、対処すべき困難はいくらでも細分化できる。これは、DMがその冒険の主眼をどこに置くかで、状況に対するズームアップ率が変わってくるというのもある。“難攻不落の監獄島に進入する”というのが冒険の主目的であった場合、侵入に成功するまで立ちはだかる困難は数多く多彩なものとなるだろう。一方、侵入した先の出来事に重きが置かれるなら、監獄島への侵入は幾つかある障害の一つにとどまるだろう。つまり、前者では要求される技能判定の回数は多くなるだろうし、後者では少なくなる。
 多くのマスターはこのあたりをたぶん、思いつく障害の数をリストアップしたり、いくつものルートを前もって想定して、それぞれに対してメモを残しておく。甲羅を経たマスターだと、このあたりの基本的なやりとりについては過去の経験があるから、特例事項についてのみメモを記しておけばいい。そして、その過程でどのくらいの歯ごたえにするかを決めてしまっている。
 
 でも初心者マスターにはどれだけのことをして良いか、その見当がつかない。
 だから、技能チャレンジなのである。
 
 技能チャレンジの書式は、手慣れたマスターが非戦闘遭遇を行なう時の覚え書きである。どの技能がどのように有効で、成功に数えるのはどのような成功で、そしてだいたいどれくらい成功したらこの非戦闘遭遇をこなしたと見なすか。
 慣れたマスターであれば、実のところ技能チャレンジは必要ない。技能チャレンジで示された課題を、PLの前にいきいきと描写し、彼らから適切なアイデアを引き出したり、驚かされたりして上手いことその遭遇を勧めることができるはずだ。そしてたぶんその進行で何ら問題はない。
 
#時々魔法のアイテムとかで技能チャレンジにおいて、パワーを使って成功した時、成功カウントを2稼げるとかしたものがあるので、そこは上手く対応しよう。
 
 ただし、そのやり方は慣れたマスターが行えるやり方で、そのやり方をなんとか記録しようとシティものや捜索ものの冒険シナリオでは苦心していた。結局の所、冒険の背景情報や地理的情報、NPC情報などを備えて、「PL側の動きを準備の厚みで押し切る」という表記方法になっていたというのが過去、3.5版時代のDungon誌などをみた感想になる。
 技能チャレンジはこうした流れの中で、非戦闘遭遇を書式に落とし込み、処理を定めて初めてのマスターに対して、“戦闘を処理するように、非戦闘遭遇を処理する”ための”形”として準備されているというのが、僕の意見である。
 
 戦闘中のパワーのやりとりをフレーバーテ・キストに沿って演出してゆくように、積み重ねる技能判定をPLとDMでふくらませてゆくことで非戦闘遭遇の遊び方を身につけ、やがてこの”形稽古”から離れてゆく、そのための書式なんじゃないだろうか、とも思う。いや、これはちょっと筆が滑ってる気がするけど。
 
 じゃあ、この技能チャレンジって慣れたマスターには必要ないの? って疑問も出るかと思う。
 たぶん、必要ない。これまで通りのやり方で遊ぶことに、すくなくともこの長期的な技能チャレンジは必要ない。と言うよりも、皆さんなら普通に遊んでこの技能チャレンジが目指そうとしたものは実現できるはずだ。
 けど、あるととても便利な道具でもある。
 
 非戦闘遭遇の大変さを記述するための定量的な方法ってこれまでなかったからだ。そして、それを経験点に表記する定量的な方法もなかったからだ。
 が、今回はそれができる。
 かなり乱暴な気はするけど、成功回数12回と成功回数4回という差で困難の度合いは表現できる。
 
 それと、たぶん技能チャレンジを扱ったDMの皆さんなら気がついているかも知れないけど。技能チャレンジというやり方はとくにD&Dに慣れてない人やRPGに慣れていない人でも、事態の解決に積極的なアイデアを出しやすい。ようだ。
 この辺は伝聞+自分の経験のみなので何とも言えないのだけど。
 3.5などでは個々の技能について何ができるかできないかがとてもゲンミツに決まっていて、その技能の効果を把握していないと「〜してみる」と言うのが言い出しにくかった、らしい(嫁談)。
 今回の技能チャレンジなら、難易度がこれくらいで、いろいろアイデア出してくれれば他の技能でも対応すると伝えてあるせいか、まずは積極的にアイデアを出す方に頭が働くようだ。結果として、戦闘以外でのアクションを提案することが多くなり、セッションがとても多彩なものになる。
 
 僕はこれだけでも技能チャレンジというのはなかなか良い、“形”じゃないかと思っている。
 
 それはそれとして、デザインの仕方とか、ここの技能の処理方法とかがもうすこしまとまっていればもっと使い良いとは思うけどね! というか、DMG2にはこの辺の例題がたくさんまとまってて欲しいものだ。

 あらためて今、通して読み直してみると、途中で技能チャレンジについての理解が右往左往している。
 非戦闘遭遇をシステマティックに扱うには、正直穴だらけだなぁという印象があったのでいろいろ読み方を考えた結果、いまは最後の「フリースタイルな非戦闘遭遇をなんとか定量化しよう」としたものであるというのに落ち着いている。
 が、その上でもう少しギミックを盛り込めないか、とか。

 これ、「違うんじゃないか」と思ったのはコンベンションでのことで。
 技能チャレンジの各技能について説明していると、長い上に聞いている方はわすれるのよね。当然ながら。
 遊びやすさのことを考えて使用技能を完全公開してたんだけど、どうもその方が面倒くさい。
 これなら、導入や情景描写から一つ二つの技能を示して、そこからはアイデアを汲み取りつつ“適宜行なう”(もう少しうまい言い方無いものか)方がスムーズではないだろうか。技能チャレンジという枠組みをかっちりと明示しない方が良いんではなかんべか、等と考えたのである。
 これ、ちょっと実践不足なので、まだ、これといった結論は出てないんだけど。

D&D第4版がよくわかる本II (ダンジョンズ&ドラゴンズ)

D&D第4版がよくわかる本II (ダンジョンズ&ドラゴンズ)


ダンジョンズ&ドラゴンズ ダンジョン・マスターズ・ガイド第4版 (ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック)

ダンジョンズ&ドラゴンズ ダンジョン・マスターズ・ガイド第4版 (ダンジョンズ&ドラゴンズ基本ルールブック)