卓上戦諸録(D16)

D16の卓上ゲーム記録

プレイヤーを呼び戻そうと試みるダンジョンズ&ドラゴンズ

By Larry Frum, Special to CNN, and Topher Kohan, CNN
June 8, 2010 -- Updated 1735 GMT (0135 HKT)

(写真キャプション:元記事参照)
Dungeons & Dragons Encounters に参加するプレイヤーたち。Dungeons & Dragons Encountersはスケジュールが多忙な人向けのD&Dゲーム」
記事要点
WoC社は、かつて旧バージョンのゲームに多大な時間を費やしたプレイヤーたちを呼び戻すため、D&Dを新たな版として公開した*1。その新たな遊び方である”エンカウンターズ*2”は毎週一回、二時間で行なえる、これまでよりも所要時間の短い遊び方である。
WoC社はこれが、新規プレイヤーおよび旧来からのプレイヤーの両方にアピールすれば、と考えている。

 ジョージア州、マリエッタ(CNN)
「『うぬ、むう』とハーフオークのレンジャー、カル・ドースは剣を抜きながら不機嫌そうに唸るよ。『敵さん、来やがったようだぜ!』」
 他の者には見えぬ敵にレンジャーが突撃し、一行は真っ暗闇の中をのぞき込んだ。突如として、骨と腐肉の化け物がわたしたちにむかって押し寄せてくる。誰もがこの距離では気づけなかった。そしてその骸骨は突如その身を炎に包み、わたしたちに向かってきた!

 そのとおり。筆者はダンジョンズ&ドラゴンズをプレイしている。けれどもこのダンジョンズ&ドラゴンズ(以下D&D)は、かつてのプレイヤーを呼び戻し、新たなプレイヤーを獲得しようとした、これまでとは違うバージョンのD&Dだ(訳注:D&D4版のこと)。

 1974年に初版が刊行されたD&D、その元祖のルールブックの表紙にはこのように書いてあった「紙と鉛筆、そしてミニチュアでプレイできる、中世ファンタジー・ウォーゲームのキャンペーン*3
 実際のところ、ゲーマーが友人たちとこのゲーム(RPG)を遊ぶとなるとそれは数時間あるいは数日にわたって時間を費やすものだった。たいていにおいてその時間には、たくさんの準備時間とけっこうな実プレイ時間が費やされたものである。
 初期のそうしたゲーマーたちの多くは年若く、ゴブリンやエルフ、ときにドラゴンが闊歩する(雄飛する?)ファンタジー世界を作り、そこを冒険するのに十分な時間を費やすことができた。D&Dがより複雑なアドバンスド・ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ(Advanced Dungeons & Dragons、以下AD&D)へと進化するとともに、大本のファンたちは年を取り、冒険をしたいというより若いプレイヤーたちに取って代わられた。
 現在D&Dを刊行しているWizards of the Coast社は、次のように考えている。すなわち、以前はこのゲームを遊び、今は去ったゲーマーは2千4百万人ほどいるが、そのいくらかは、もうD&Dを遊びたくなくなったから止めたのではない。彼らのライフスタイルが変わり、ゲームに時間を割けなくなったからなのだ。従ってWoC社は、この点を解決した新たなルール・システムを開発し、以前のファンを呼び戻そうとしているのである。

 新たな企画、「D&D Encounters」はこのゲームを遊ぶのに必要なもの・資材がすべて提供される。そのうえでプレイ自体にかかる時間はこれまでのものに比べて短い。ブランド・ディレクターのLiz Schuhによれば、目指すものは「かつてのゲーマーたちにもう一度ダイスを握らせること」であるという。
「わたしたちは彼ら(かつてのゲーマー)の現在の時間枠にそぐう形でD&Dを遊ぶことに挑戦し、経験して貰いたいのです。それは同時に、新たなルール・システムを知る機会になるのですから」

 ”D&D Encounters”では事前作成されたキャラクターと事前作成された冒険がダンジョン・マスター(ゲームの審判にして語り手、DM)に提供される。戦闘用のマップ、トークン(キャラクターやモンスターを示すチップ)、ゲームの資料やプレイヤーへのボーナス・カードなどのプレイエイドも“すべて”含まれているのだ。
 この冒険は12週間にわたって行なわれるが、各週の遭遇(Encounter/エンカウンター)には約2時間ほどしかかからない。ジョージア州マリエッタの店舗“Ravens Nest”で”D&D Encounter”のDMを行なう、Mark Watkinsは言う「新版(訳注:第4版、現在日本展開中)のD&Dは(ゲームが)シンプルで軽快です」
「これは、DMを行なうのもとても簡単です。WoCは何もかもを揃えてくれているのです。まさにちょっと来て遊んでゆく、そんな人にぴったりです」

 この“D&D Encounters”は忙しいゲーマーにスケジュールの許す範囲で1週間に一回D&Dを遊ぶ機会を提供するというだけの企画ではない。かつてD&Dのキャンペーンは、一般的に数ヶ月から数年におよび、プレイヤーたちはその物語を途中で止めないように、そのセッションに毎回参加する必要があった。一方、”D&D Encounters”ではプレイヤーは自分たちが選んだ機会に来て参加することができるし、新規のプレイヤーも現在進行中の物語に簡単に途中参加できるのである。
 2週間前にこの“Ravens Nest”で行なわれた、D&D Encounters最初のシーズン、(タイトルはアンダーマウンテン*4)の第11回セッションにおいては、第一回からの継続参加者2人、シリーズ途中からの参加者2人、そして始めて参加するのが3人と言った具合であった。このゲームは僅かな準備(もしくはまったく準備ナシで)で誰もが参加できるように作られている。――必要なのは、ダイスを振って楽しもうというやる気だけだ。

 WoC社はプレイヤーたちに思い出して貰いたいのだ。生き生きと想像力を巡らすのは、コンピュータの画面上の情報を単に眺めることよりも、より充実したものになりうるということを。”D&D Encounters”はペーパー&ペンシルRPGの最良の部分、その見本とも言える:すなわち、仲間とのやりとり、心の中に豊穣で素晴らしい世界を想像すること。これによって短い時間と言えども、あなたはその世界へescape*5できるのである。

 スリリングだが時間のかかるゲーム、それをもう一度遊びたいと望んでいるオールド・ゲーマーたちにとってこの企画は古き良き喜びの再来になる。WoCはそう望んでいる。
「わたしたちは改めて理解したんです。古いプレイヤーたちはかつて一緒に遊んでいたグループとは離れた場所に住んでいたり、D&Dを捜す時間が無かったりするのです」WoC社でプレイ組織プログラムの統括を行なっているArron Goolsbeyは言う。「わたしたちはゲーマーたちを、昨今の彼らを拘束しているライフスタイルや時間の都合にそぐう形で、互いに繋ぎ連携させたいのです」

 この試みは実際に上手く行っているようだ。ジョージア州ローレンスビルの店舗、Tower Gamesで行なわれた”D&D Encounters”では、昔からD&Dを遊んでいた三人の男性たちがパーティを組んでいた。彼らは家族や仕事に邪魔されないゲームのやりかたに興味を持ってD&Dに戻ってきたのだ。
 オーナーのAndrew Phillipsは「反応は圧倒的だね」と語る。
「プレイしたいって言っている人がたくさんいるんだ。父親と息子、父親と娘っていうプレイヤーたちも来てるね」

“Augie”で通っているDMには、Alexという息子がおり、彼もまた”D&D Encounters”を遊んでいる。そしてこの親子は自分たちでも別にゲームを遊んでいる。1979年からD&Dを遊んでいる“Augie”によれば、子どもがゲームを学ぶのを見るのは楽しいし、この企画はそれを簡単にしているという。
「新版(第4版)はチームワークのゲームなんだ。僕はこの遭遇の内容をまったく時間をかけずに準備できるし、プレイヤーたちは5分かそこらでプレイできる。ある意味ではボードゲームみたいに遊べるんだよ」

「ええ、新たなルールはゲームをより早く簡単に遊べるようにしています。さらにこのルールはとても柔軟なのでプレイヤーたちは事前作成のキャラクターを使っても良いですし、自分でキャラクターを作っても大丈夫なんです」とブランド・ディレクターのLiz Schuh。
「わたしたちとしては、ゲーマーに十分すぎるくらいの“砂場、お試しの機会”を与えたい。そこではDMもプレイヤーも望むことがなんでもできるんですよ」

 また、この新版のルールは新ルールについて何も知らない人(それどころかD&Dについてまったく知らない人でさえ)ですら遊べるうえ、その遊び方を先達のD&D冒険者たちから学ぶことができるものとなっている。
 最新の”D&D Encounters”のセッションで、先ほどのWatkinsは新規のプレイヤーからゲーム戦略のコツを聞かれ、新たなパワー*6と効果を説明していた。
「戦闘はより楽しく、躍動的になったね」とWatkinsはフレイミング・スケルトンのファイアーボールを冒険者一行にぶち込みながら言う。卓上に広がる息を乱す興奮は、プレイヤーたちがあっという間にゲームへと感情移入した証拠だろう。

 この試み、WoCはまだ始めたばかりだ。

 具体的な数字こそまだ把握していないものの、WoC社のSchuhとGoolsbeyは”D&D Encounters”に参加した世界中の何万人というゲーマーたちからレポートを受け取っているという。そして、WoC社は既に、近くで行なわれているゲームをたやすく捜せるようにしている。
 WoC社のウェブサイトではこのプログラムを行なっている店舗の場所を公開してるし、自分のキャラクターを作ろうという人にはキャラクター・ジェネレータを提供している。過去の“D&D Encounters”についてのレビューを読めばこれまでの物語についてゆけるだろう。そして、ポッドキャストによりwebcomicの巨人Penny Arcadeの面々によるゲームを配信したり、カートゥーンネットワークで人気の“Robot Chicken”のライターたちによる動画を配信したりしている。
 さらに、WoC社はコンピュータに慣れ親しんだプレイヤーのために、WoCのTwitterアカウントを通じてボーナスを提供したり、冒険の作製、キャラクターデータのアップデート他の情報を提供する、登録制のオンラインサービスを提供している。

 6月9日からは新たなシーズン、”ダーク・サン”の冒険が始まる。D&Dについて興味ある人にいえるのはただ二言だ。「いいから、いけ」。

「あなたはそこでキャラクターを手渡されて、そして仲間に助けられることでしょう。友人とこのゲームを遊ぶと、明確で感動するような反応が返ってきます。たとえそれが知り合ったばかりの友人だったとしてもね」

*1:訳注:現在の4版のこと

*2:訳注:Encounters、これまでの日本語版では”遭遇”と訳出

*3:訳注:このキャンペーンはシミュレーション・ゲームにおいて一連の戦役を通じて遊ぶやり方(戦史の謂いとしてのキャンペーン)の意。この遊び方から、同じキャラクターにより複数回のゲームを遊ぶ、現在のTRPGのキャンペーン・ゲームが導かれる

*4:D&Dの代表的な背景世界、フォーゴトンレルムにある有名なダンジョン複合体

*5:訳注:このEscapeを“逃避”と訳して良い物かどうか。ちょっと悩む。ファンタジー小説を逃避文学として扱われることに対するトールキンの反論あたりが下敷きにあると思われ。マイナスのイメージのない逃避かねえ

*6:訳注:プレイヤー・キャラクターが使用できる特殊な技