卓上戦諸録(D16)

D16の卓上ゲーム記録

“スイーツ(笑)・ミーツ・D&D”

月曜日は魔法使い (HJ文庫G シ01-01-01)

月曜日は魔法使い (HJ文庫G シ01-01-01)


 さて、この本。
 何の本かいまいちよく伝わっていない気がします。

 一行で表現すると、
 “スイーツ(笑)・ミーツ・D&D

 WoCのプロモーション部門に勤めていた著者(一切ゲーム経験などなし)が、有象無象のいるWoC社内でちょっと同僚の話に付き合わされたあげく、D&Dを遊ぶ羽目になるというのが導入。彼女がWoCで受けたカルチャーショックというのも、納得いくイタイ話ばかりだったりします。ストームトルーパーの後ろに並んでコピーの順番待ちするような職場だったらしい。
 彼女自身は、先ほど述べたとおりゲーム経験はありません。ただ、彼女もまた近代アメリカに住む以上、若いころにD&Dとは遭遇しています。具体的にゆーと中学校一年(7年生)のときに同級生の男の子が遊んでたのを知っているんですが……。

 あー、向こうでもヲタの男ってこういう風に見られてたんだなぁ、というイタい描写。というか、それはオレじゃないのか。
 というか、この本の導入部ではD&Dというものがいったいアメリカの一部でどのように捉えられているかというところに大分が割かれており、その記述がまた海を越えた僕らの胸をえぐるようなものばかり。

D&Dは、思春期前の男の子たちがやるもの。みんなで地下室に集まって「ドラゴン・スレイヤーズ」とかいった秘密のクラブを作り、秘密基地を作る”
“つまり、ナードが遊ぶものでしょ”
“奇妙な衣装を着て、奇妙なアクセントでしゃべって、地下室で何日も何日も魔法使いや騎士になりきって過ごして、しまいにははらの立つヤツを魔法で何とかできると思い込むようになるもの”

 もちろん著者も多かれ少なかれこんな印象を持ってたわけですが、実際に遊んでみると決してそれは事実ではなかった! わけです。

 この本の面白いトコ、その1。「アメリカでD&Dがどういう風に見られてきたか、それが伺える」
 で、遊ぶ段になる。ここで、もひとつ面白いところがあります。それは、彼女たちの遊ぶ風景。

 この本の面白いトコ、その2。「遊んでいるのは大人たち」
 これまでもいくつかRPGを遊ぶ人たちの物語がフィクションになってます。「ひと夏の経験値」や「幻想主義」なんかがざっと頭に浮かびますね。けど、そのいずれも登場人物はティーン・エイジャーだった。

ひと夏の経験値 (富士見ドラゴンブック)

ひと夏の経験値 (富士見ドラゴンブック)


幻想主義 (カドカワコミックスAエース)

幻想主義 (カドカワコミックスAエース)


 ところが、この本では違う。彼女たちのプレイグループはみんな30代で、職業もブランド・マネージャー、メディア・プランナーなどの勤め人。そして半数が子持ち、母親も独りいるといった具合。つまり、大人が週のとある夕べに集まって2時間、セッションをするというのが普通になっている、そういうプレイグループのお話なんですね。

 まぁ、わが身を振り返るにDACのスタッフ周りでもなんでも確かにもうみんないい年して、結婚していて、子供もいる状況で遊んでる人が多い。RPGという趣味自体ができて30数年たった今、こうした状況のほうが自然です。
 落ち着いた、大人の普通の趣味としてのD&D。多分、今D&Dを遊んでいる僕らが一番共感できる登場人物たちだと思います。

 この本の面白いトコ、その3。「スイーツ(笑)、in エベロン」
 “スイーツ(笑)”なんてのは完全に人を馬鹿にした言い方なんですが、でもあえてそう書きたくなるくらい、この本の著者はgirly girl、だと思います。で、そんな彼女がそのままの価値観でD&D世界、エベロンで冒険を行うわけで、それがスムーズに行くはずがない(笑)プレイ風景を見てると、DMに同情すること請けあい。こればっかりは読んでください。頭抱えること間違いなし。
 で、さらに何をトチ狂ったかこの著者。自分の女友達(当然ゲームなんか知らず、D&Dへの偏見バリバリ)相手にベーシック・セット使ってDMをしようとする!
 さっきまで読者がもだえてたイタさってのは、著者の目から見たゲーマー像のイタさだったわけですが、ここでは“知らない相手にD&Dを布教しようとするゲーマーの苦労”をまざまざと見せられて、やはり悶絶すること間違いなし。
 ちなみに、本文中にルールや用語の解説があるのですがこれもまた、“スイーツ(笑)”視点で書かれているのでムズムズします。というか“愛奴レグダー”とか“プロテクション・フロム・PMS”ってなんだよ。
 
 む、いかんこのまま見せ場の話をしてしまうと延々と全部話しかねない。まとめよう。
 この本は、
 D&Dがどう思われているのか。
 D&Dをどんな風に遊んでいるのか。
 遊んでいるのはどんな人たちなのか。
 そして、D&Dを遊ぶことで生活がどんな風に変わるのか、どんな風に友達とやってゆくようになるのか。
 といった、洋の東西を問わない等身大のゲーマー像を、ゲームとは縁のない人の視点から描いており、結果としてゲーマー村の外の人にも十分通じる、RPGという趣味の紹介本にもなっている。

江川紹子の悪夢を覚えている年寄りとしては、こういった本がもっと早く出ていたらと思わずにはいられない。
##いや、あの時代は情報が不足してたし、ジャンル的にも洗練されていなかったからだというのはわかってるけどさ。恨み言は言いたくなるのよ。

 D&Dに限らず、RPGというジャンルについて何か説明する時の手がかりにはなるだろうし、なによりも洋の東西を問わずゲーマーってのは度し難いと実感することができるので、すべてのRPGファンにお勧めの本だ。
 もちろん、嫁さんや彼女に自分の趣味を説明するときにこれを渡せば、まぁ大体は間違いなく理解してくれる、そういうシロモノなので、早めに確保しておこう。
 今必要なくても、そのうち読ませる相手ができるかもしれないからね!

補足
 個人的には、そろそろ日本でも30代でD&Dを普通に遊ぶ人たちの物語が語られてもいいんだろうなとか思う。ガンプラだと今野敏の小説「慎治」とかがあるんですけどね。

慎治

慎治

補足2
 本編で一番ヒットしたシーン。著者がフィットネス・スタジオでトレッドミルに乗りながら「Dungeons & Dragons For Dummies(何もわからない人のためのD&D、そういう手引き本が実際にある)」を読んでいた折、近くのマッチョが一目見ていう。
「ああ、ほっといてもらうにはいい方法だね」
「やっても見ないで言うもんじゃないわ」
「やってたんだよ。1982年、慢性のにきびとマウンテン・デュー依存症にかかってた12歳のころ。わくわくしたな」

 ここ、すごく示唆的なシーンだと思うのだけど、どうだろう?

補足3 序より引用
 「この本が1980年代に存在していればよかったのに。D&Dをはじめて間もないころ、女性をゲームに引き込むことがどうにも不可能であるというのが、われわれの悩みだった」 サルヴァトーレ、お前もか。とはいえ、ぶっちゃけすぎ。

ダークエルフ物語(1) 故郷、メンゾベランザン

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