卓上戦諸録(D16)

D16の卓上ゲーム記録

D&Dに関するいくつかの誤解

 D&Dというのは日本でも最初期に紹介され、多くのゲーマーに印象を残している。当時は紹介されたアイテムも遊び方に関する情報も少なく、手探りで遊び方を作っていった。それ故に同じD&Dのことを話していても、プレイグループ毎にまったく違うやり方をしているなんてことは良くあった。
 実の所、2008年の今になってもやっぱりその頃のイメージを(日本では)D&Dは引きずっている。そのため、今となっては実情にあわない評価をされてしまうこともしばしばだ。
 ただこれについては逆に、今でもそのように過去から復帰して言及してくれるユーザーがいるというのがD&Dの底力だなぁ、と思う。
 で、Webを見ていたらそう言う誤解があったので、ちょっと言及させてもらうことにした。先方はコメント欄を開いてなかったので、トラックバック

RPGコラム 『うがつもの』: シーフを軽戦士にするな

 こちらの要旨はよくわかる。3.0版以降のD&Dでは戦闘という華々しくはあるが1つの手段に過ぎない選択肢を正面に押し出しすぎ、それによって本来TRPGが備えていた様々な問題解決手段がないがしろにされていないか、おもしろさにアクセスする機会が失われていないかという危惧だ。
 おそらく回転翼さんは『プレイヤーズ・ハンドブック』だけを読んでそのように理解されたのではないだろうか。というのも、

だが、MWGに重点をおいた3版そして3.5版のD&Dは倒したモンスターの脅威度に応じて経験点を得るので、戦闘を回避するという選択肢はゲーム目標に反することになります。

 というのが誤解だからだ。3.5版『ダンジョン・マスターズ・ガイド』の第2章から経験点に関する場所を引用してみよう。

 脅威度はモンスターや罠を克服するのがどれほど簡単なのか困難なのかを表わす尺度である。脅威度は第3章『冒険とシナリオ』で遭遇レベルを算出するのに使用されている。遭遇レベルはその遭遇全体(たいていは複数のモンスターから成っている)を克服するのがどれだけ難しいかを示している。モンスターはたいてい戦闘で倒すことで克服することができ、罠は解除したりすることで克服することができる。
 君はいつその脅威が克服されたかを決定しなければならない。たいていの場合、それは簡単なことである。PCが戦闘で敵を負かしたのか? それならば、彼らはその脅威に立ち向かい、経験点を手にいれたのだ。判断の難しいこともある。PCたちが地下にある魔法の宝物庫に入るため、寝ているミノタウロスの脇を忍び足で通り抜けたとしよう――彼らはミノタウロスとの遭遇を克服したのだろうか? 宝物庫に行くのが目的で、ミノタウロスは単なる番人であるなら、答えは恐らくイエスだ。そうした判断を下すのは君に一任されている。

 と言うわけで、目的に沿う形で戦闘を回避するのであればそれは遭遇と見なされ経験点が入る。製品としてのアドヴェンチャーでも『赤い手は滅びのしるし』では戦闘以外にNPC達と有効な関係を築いたり、有効な情報を得ることで経験点が得られたりする。そして、そう言う局面においてローグやバードは大活躍する。
 回転翼さんの心配は杞憂に過ぎない。おそらくは回転翼さんが遊んだ時にDMがそのような対応を見せなかったか、この項目を失念していたのかも知れない。また、コンベンション会場などでは拙速なる戦闘による解決のほうが、巧遅なるロールプレイ、アイデア勝負の解決よりも好まれると言う傾向にあるのも一因だろう。
 これ、冒頭で述べた“実情にあわないD&Dイメージ”というのがDM側にもあるために起こる現象とも言える。かつてのD&Dと同じイメージのまま、『ダンジョン・マスターズ・ガイド』の魔法のアイテムや罠関連のルールだけ読んでると先ほどの章は読み飛ばしてしまうからだ。
 
 ちょいと脱線するけど、D&Dの進化を知るには『ダンジョン・マスターズ・ガイド』を読むのが一番だというのが僕の意見。『プレイヤーズ・ハンドブック』の情報やシステムの記述でもゲームとしての進化が伺えるけど、『ダンジョン・マスターズ・ガイド』での丁寧な遊び方の記述こそが30余年の蓄積を持つこのゲームの力だと思う。
 
 直接的な戦闘に頼らない遭遇解決の手段というのは、各クラスのクラス技能を見てもわかる。ほとんどのクラス(純粋前衛のファイターやバーバリアンですら)対人技能(〈交渉〉や〈威圧〉、〈はったり〉)を持っているし、それらが苦手なクラスはレンジャーの各種野外技能やウィザードの広範な知識(さらにはその呪文)によって戦闘以外の問題解決手段を得られるようになっている。とくに〈威圧〉判定は引っ捕らえた雑魚から情報を引き出す時にえらく有効だ。
 
 再び脱線するとこのあたりの対人関係技能は、ただ単にダイス処理してしまうのも場合によっては味気ないので、僕はロールプレイをしてもらっている。それが適切であれば判定にボーナスを付ける。こうするとボーナスを得るためにいろいろとアイデアを絞ってくれるわけだ。このあたりHJサイトのWebリプレイ(ダンジョンズ&ドラゴンズ日本語版公式ホームページ)の連中がうまかった。
 
 またもう一つの誤解というか、すれ違いがある。回転翼さんは“シーフを軽戦士にするな”という題でエントリを書かれているが、3.0版でクラス名がシーフからローグに変わったのはデザイナー達がはっきりとこの技能職のイメージを脱泥棒化したかったからなのだ。つまり、3.0から4版にかけての流れではっきりと泥棒から技能を備えた軽戦士という風にデザイン・コンセプトが変わってしまっているのである。さらに言うと、このクラシックD&Dにおけるシーフ≒泥棒というのも、レベル上昇に伴ってバックスタブのダメージが上がらなかったというシステム上の制限による物であり、AD&Dの2版ではバックスタブのダメージはレベルにより上昇するためクラシックD&Dのシーフに比べ、割と軽戦士的な動きができた。
 つまるところ、このシーフ≒泥棒と言うイメージも古い限定されたD&D像がもたらすものであり、どうもアメリカではシーフというのに求められる役割が軽戦士としての枠に移行しつつあったというのが事実らしい。
#ちなみに3.X版で泥棒としてのローグを極めようとすると、それは上級クラスのダンジョン・デルヴァーやナイトソング・インフィルトレイターあたりだろう。
 
 というわけで、2,3回ほど遊んだだけだったりコア三冊の『ダンジョン・マスターズ・ガイド』を読んでいなかったり、そもそもクラシックD&DとD&D3.X版の間でどのような発達があったか知らないと誤解されてしまうのももっともな意見だったので、誤解を解消しようとしてみた。
 もちろん僕はD&Dが大好きなので贔屓の引き倒しというのも否めないけど、ここに記したものを読んでもらえれば誤解は解けるんじゃないかなと思う。