卓上戦諸録(D16)

D16の卓上ゲーム記録

技能チャレンジについて・壱

 内容的には前後するが技能チャレンジの基本を詰めようとしてた文章。
 このあたりで、熟練DMがやっていた判断や、シナリオを作るさいの省力化のために技能チャレンジが用意されているのではと思い至る。
 省力化というのは、たとえばシティ・アドベンチャーにおける情報収集は、以前だったら数ページ分に記された、街やNPCの背景情報を使うこともあったと思うが、それを抽象処理する書式で書けるようになったということ。
 “壱”とか書いているけど続かなかった。

 ようやく一段落ついたので、少しずつ再開。
 まずは技能チャレンジってそもそもなんなのよ、ってはなしと4版での技能判定の意味について確認します。

技能チャレンジ(Skill Challenge)とは?

 4版で導入された非戦闘遭遇を解決するための処理方法というか手順。
 4版では遭遇を戦闘遭遇と非戦闘遭遇に分けて考えている。
 この分け方自体は3.5末期あたりに明確に意識されるようになった。(「鬼哭き穴〜」における冒険の書式など)。もちろんこの二者の区分はわりと流動的なものである。NPCとの交渉(非戦闘遭遇)が決裂してすぐに戦闘に移行する事もあったし、効率的な戦闘(待ち伏せなど)を行なうために、非戦闘遭遇で準備を整えるようなこともあった。
 3.5版以前で非戦闘遭遇と戦闘遭遇との目に見える顕著な差といえば、遭遇自体をどのように解決してゆくかという枠組みがルールで示されているかいなかったか、である。
 別に難しい話と言うわけではない。
 戦闘遭遇には、遭遇距離、不意討ちの有無、イニシアチブの決定、そしてラウンド毎に各人がターンを経てゆくと言う解決手順が示されていた。PCの持つ問題解決能力はこの解決手順の各段階で効果を発揮するものだった。
 それに比べると非戦闘遭遇の解決手順は緩やかであった。個々の行動(技能判定のやり方など)について判定を行なう時、個々の成否についてはそのルールに従うのみで、個々の試みを総合し、結果が全体としてどのような状況になるか、どのような展開がなされるかについては、実のところDMの判断や冒険シナリオ中の文脈に従うことになっていた。さらに言うならば、技能判定によらず適切なロールプレイやアイデアが状況を決定づけることも良くあった(そしてそれが醍醐味でもあったのだ)。
 たとえて言うなら、3.5版以前の非戦闘遭遇は命中判定のルール(技能判定と難易度)はあるものの、対象(解決すべき問題)のhpの決め方、イニシアチブや判定手順をどうするかが明確に決まってない戦闘ルールのようなものだった。
 
 その大きな要因は、一回の判定や行動(技能判定なり適切なRP)のもたらす結果が、必ずしも一定の度合いの効果をもたらすわけではないと言うところにある。ロングソードなら1d8のダメージを与える。だが、〈交渉〉の判定が成功したら、どれだけ目の前の難関を突破できるのか? 達成した難易度が高ければ、それだけ良い効果が得られるのだろうか? 
 目の前の難関がどれだけ大変で、どう取り組めばいいのか。
 
 これまでそれは、
 1)DMの情報を元に“困難”の度合いを見積もる。
 2)技能や呪文、特殊能力の効果を鑑みて、どれだけ“困難”に立ち向かえるかを予想、判断する。
 3)アクションを通じて、“困難”をどれだけ達成できているかを見計らいつつ、次の行動を決定、実行する。
 という流れでだった。
 これ、慣れるまでは結構大変である。
 まず、1)で困難の度合いを見積もるのが大変だ。ある程度慣れたり、DMとの馴染みが深いならだいたいの所を予想できるだろうが、そうでない場合には次の2)立ち向かえるかを予想・判断する、を行ないつつ困難の全貌を把握するという作業になる。これには、自分のキャラクターがどれくらいのことができるか、〈跳躍〉判定で難易度25までクリアできればどれだけの距離が飛べるか、〈交渉〉ではどのようなことができるのか、と言ったこともわかってないといけない。
 そして、個々の行動の成功が全体の困難をどれだけ突破しているのかについても、DMとの質疑応答、キャラの能力が保証する達成度合いを元に判断する事になる。
 
 じつのところ、これに悩むのは最初の数回と言う話もある。ある程度セッションを積むとDMとの相互理解が進み、自分のキャラクターの性能も把握できて非戦闘遭遇をこなせるようになる。が、問題が出てくるのは他のプレイグループのDMやコンベンションのDMなどとのゲームだ。
 コンベンションでダンジョンものが多いのは、アイデアやDMの対応で差が出る非戦闘遭遇を極力廃し、一定水準の冒険を提供できるからである。加えて、非戦闘遭遇はPLの取りうる選択肢が膨大であり、それらに対応する記述を書いていくと多くなってしまう(しかもその記述は使われないことも多い)。
 
 技能チャレンジはこれまで非戦闘遭遇が抱えていた、このような「枠組みが存在しない」こと「対応すべきことが幅広い」こと、それから導かれる「仕組みを記述で対応しきれない」ことに対応すべくデザインされた、「非戦闘遭遇の処理方法」である。実を言えば4版ならではのシステムというわけではない。というより、3.X版はおろかD&D以外のゲームにも応用できる、戦闘以外の解決を処理する手法である。
 
 仕組みを説明しよう。『ダンジョン・マスターズ・ガイド』が手元にある方はP.72からを読んでもらえれば良いのでそちらを参照。
 
 技能チャレンジを簡単にまとめると、「目標を達成するために複数回の技能判定を行ない、3回失敗する前に、一定回数の成功を収める」という処理になる。
 
 個々の技能判定の難しさはおもにその技能チャレンジの“レベル”により設定される。そして、総合しての難しさは”複雑度”という「必要とされる成功回数」によって決まる。複雑度は1〜5まであり、複雑度1の技能チャレンジは遭遇において同レベルの標準モンスター1体と同じ経験点を有する。複雑度1は成功数4,2は6……5は12となる。
 技能判定の難易度については、『ダンジョン・マスターズ・ガイド』P.42にあるレベル別難易度の表を主に使うことになる。
 
 ちなみに言っておくと4版においては、だいたいその分野の訓練を積んでいて(+5のボーナスが得られて)、秀でた能力値(ボーナスが+4あたり)があれば、出目1でも“通常”の難易度は達成できる。対抗ロールやよっぽどのことを行なうのでない限り、技能判定は訓練を受けていれば基本的に成功するものなのである。出目10を行える状況なら、難易度20も容易にクリアできることが多い。
 これが端的に現れているのが〈盗賊〉技能の解錠判定であり、1〜10の間は難易度20、11〜20は難易度30、21〜30は難易度35となる。先ほど書いたとおり、1レベルでもちゃんと作ったローグ系なら〈盗賊〉技能の修正値は+8〜10は堅く、〈盗賊〉道具を使えばさらに+2のボーナスが乗る。よって、適切な訓練を受けた冒険者は落ち着いた環境下(出目10OK)では確実に錠前が外せる。何回も試行できる(結果的に出目20ができる)環境下なら1レベルのローグが11レベルあたりに出てくる錠前を開けることもできる。
 つまり、4版においてはカギを開けるというのはもはやドラマとなるシーンではないのだ。4版で単なるカギを開けるのがドラマチックになり、遭遇の一部として意味ある判定になるには、出目10ができず、しかも失敗にペナルティがあったり、そもそも試行にペナルティを科せられている状況である必要がある。
 重ねて言う。4版では単にカギを開けたりする事がローグの仕事ではない。敵が襲ってきたり、後から岩が転がってきてるようなとんでもない状況で迅速・確実にカギを開けるのがローグの仕事なのである。
 
 技能チャレンジも基本的に成功を重ねて行くものであり、失敗するのはそもそも試みに無理があったか、やっちゃいけないことをしたか、だれも適切な技能を持っておらずむりくり試みる羽目に陥ったか、である。
 バランスのとれたパーティが、適切な技能選択をしていけば、おおよそ成功する。これは高難易度の技能判定を何とかクリアして成功を重ねて行く、という代物ではないようなのだ。すくなくとも、現段階の技能チャレンジの例等を見ているとそれが伺える気がする。

短期間の技能チャレンジと長期間の技能チャレンジは別。

 DMGを読んでいればわかるとおり4thの技能チャレンジは二つのタイプがある。
 1つは通常の戦闘ラウンド内に導入される短期間の技能チャレンジ。DMGの罠の説明を読んでもらえばわかるとおり、4thの罠はその多くが罠単体としてではなく、罠とそれを地形要素として利用する敵という一つの遭遇としてされる時にもっともおもしろくなる。
 罠単体でごろっと一つあっておもしろい遭遇と言う場合、それはただの落とし穴や爆弾や宝箱の罠ではなく、ダンジョンの一区画を使った罠遭遇となる。これはこれであり。
 戦闘遭遇の間に、振り子ギロチンが毎ラウンドランダムに攻撃してきたり、アンデッド部屋で毒ガス巻かれたり、非実体モンスターが居るところで吊り天井などが4thのトラップが光るところ。つまり、戦闘中に各種技能をもったキャラクターが技能チャレンジを行なわなければならない、そう言う状況が楽しい。
 考えて見て欲しい、PHBで考えるならこれらの罠を外すことができるのは撃破役のローグとウォーロック、重要なダメージディーラーが、すくなくとも4rは罠に対処するために戦闘に参加できないってことになるのだ。他の人間がそのあいだ敵を食い止めたり、一瞬だけローグがダガー投げたり、するわけだ。
 この技能チャレンジはただやるだけで楽しい(3月のHJコン、ラスト遭遇あたりはこれを意識しました)。さらにチャレンジ失敗して罠が爆発とかしたりするともっと楽しい。
 重ねて言うが、この手の「短期間の技能チャレンジ」については運用のノウハウはたぶんほとんど必要ない。文章が改正される前のDMGに乗ってた処理はこの「戦闘ラウンド中に処理する形の技能チャレンジ」について書いてた模様。

長期間の技能チャレンジ

 これ。
「3回失敗するまでに、一定回数の成功を積み重ねる」。書き出せばそれだけの処理なのだけど、それなら該当する技能について一番高いキャラクターが何回も成功すれば良いだけで、試行回数や失敗リスク他について決めてないとホント単なる作業だし、エラッタ適用後はリスクと言えるほどの失敗率もないし……。正直困る。
 しょうがないのでDMGに記された技能チャレンジのサンプル(あそこに乗っているのはすべて”長期間の技能チャレンジ”である)を見たり、WoCのWeb記事(http://www.wizards.com/default.asp?x=dnd/drfe/20081107)で確認してわかったことがある。
 以下は該当記事一部まとめ:恣意的な解釈を否めないので原文当たるが吉
 1:「技能チャレンジと戦闘は似ている。DMである君とプレイヤー、双方がそのチャレンジを望んだ時にもっとも良く機能する」
 例:橋を渡らねばならないがそこにはトロルが居る。戦わねばならない。
 PL側が潜行や贈賄でことを何とかしようというのでない限り、この例で戦闘は不可避に思える。しかし、慣れたDMであれば、このときパーティの思いついた計画を実行させるのが何よりの妙手と知っているはずだ。確かに戦闘しても良いけど、PLがアイデアを思いつき、そしていくらか出目で20を出して波に乗っているなら戦闘にこだわる必要は無い。素早く決断し、アイデアに報いよう。
 技能チャレンジの処理も同様だ。
 真に優れたアイデアがあり、君の用意したチャレンジがそれで簡単に突破されたらどうするか。
 悩まずゆけよ、ゆけばわかるさ。D&Dは創造性と想像力のゲームだ。
 ただ一つの確定下海法しかないのだとしたら、一体何が楽しいのか。
 技能チャレンジを作る際に留意するのは、PC達が(君の用意したものに対して)まったく別の展開、アプローチを行なうことや、チャレンジそのものに失敗した時のことも考えて置こう……。
 
 技能チャレンジの説明の初っぱなにこんなこと書かれても気はするが。
 勘違いしがちなのは、技能チャレンジというのは確かに冒険の障害、遭遇を形作る障害物として見えることが多い。成功回数などについて記されているから、そうしたゲンミツな処理を行なわなければ“ならない”手続きに見えるけど、実際はそうではないという所だろう。

 これ、ちょっと別記する。

WoCの記事を順次訳そうと思っていたのだけど止まっている。まぁ、ある程度は「よくわかる本II」にまとめたから……。